均衡の物理から、モーターと減速機、人工知能、そしてバッテリーまで。滑らかな外見の下を、一枚ずつ持ち上げてみます。
第2話の終わりで見たように、今日のヒューマノイドの外見は、陣営を問わずしだいに似通ってきています。二本の足と五本の指、頭に載ったカメラという大枠は事実上一つへ収束し、だからこそ本当の競争は、その滑らかな外皮の下、すなわち部品とアルゴリズムの層で繰り広げられます。今回はその殻を開け、ヒューマノイドを実際に動かす五つの核心を順に見ていきます。
順序は、体の外側から内側へと向かいます。まず「歩く」という動作がなぜこれほど難しいのかという物理の問題から出発し、その動作を実際に生み出すモーターと減速機を経て、何を見てどう判断するのかという人工知能の領域に至り、最後に、すべてを何時間も支えながらも最も注目されないバッテリーの前で立ち止まります。
第1話でホンダのZMPに短く触れましたが、この概念はヒューマノイド歩行の出発点であるだけに、もう一度正確に押さえておく必要があります。人であれロボットであれ、二本の足で立っているとき足の裏が地面に接した領域を「支持領域」と呼び、体全体に働く力と慣性を一点に換算した零モーメント点、すなわちZMPがこの支持領域の内側にとどまるかぎり、機体は倒れません。
問題は、この条件をじっと立ったままではなく「歩きながら」保たねばならない点にあります。片足を上げた瞬間、支持領域は残る一方の足の面積へと狭まり、体は刻一刻と前へ倒れようとするため、制御器は数十の関節の角度と速度を一秒に数百から千回も計算し直しながら、ZMPを足の内側へ絶えず引き戻さねばなりません。初期のヒューマノイドがあれほど遅く慎重に歩いた理由も、近年の機体が走り、跳ぶことさえできるようになった理由も、結局はこの計算をいかに速く精緻にこなすかにかかっていました。
均衡を保てという命令が下りてくると、それを実際の動きへ変えるのは、関節ごとに収まったアクチュエータ、すなわち「人工の筋肉」です。第1話の油圧式Atlasが示したように、油の圧力で大きな力を出す油圧方式はかつて躍動性の象徴でしたが、重く高価で精密な制御が難しいという弱点ゆえに、2020年代のほぼすべてのヒューマノイドは電気モーターへと転じました。
その核心が、しばしばBLDCと呼ばれる高性能の電気モーターです。同じ重さでより大きな回転力を出し、微細な制御が可能で、発熱と効率の管理でも有利だからですが、ただしモーターが直接出す回転力だけでは、人の体重を支えて歩くにはまったく足りません。モーターは本来「速く、弱く」回ることに長けているため、その速い回転を「遅く、強く」変える装置が不可欠であり、それこそが次章の主役である減速機です。
減速機は、その名のとおりモーターの速い回転を落とし、その分だけ大きな回転力を生み出す部品で、ヒューマノイドの関節の性能と精度を事実上決定づける核心です。なかでも最も広く使われるのが、ハーモニックドライブと呼ばれる精密減速機で、薄くしなやかな歯付きカップが楕円形の入力軸に押され、硬い外輪とわずか二点でのみ噛み合うという独特の構造ゆえに、小さく軽いながらも歯の間の遊び(バックラッシュ)がほとんどない精緻な動きを生み出します。
この部品が重要なのは、技術的な優秀さのためだけではありません。ハーモニックドライブは作るのが難しく、少数の企業が市場を事実上寡占しており、しかもヒューマノイド一台には関節ごとにこうした精密減速機が数十個ずつ入るため、ロボットが大量生産される瞬間、この「最も高価なひと握り」を誰が供給するのかが、それ自体で巨大な事業になります。技術の問題がそのまま金の問題へと転じるこの一点こそが、次回に扱う株式バリューチェーンの中心に置かれる理由でもあります。
どれほど頑丈な脚と精密な関節があっても、何を見てどう動くかを判断する「頭」がなければ、ロボットは決められた動作だけを繰り返す機械にとどまります。第1話のASIMOと今日のヒューマノイドを分ける決定的な違いはまさにここにあり、カメラと慣性センサー(IMU)、そして力とトルクを感じるセンサーが絶えず周囲と姿勢の情報を集めると、人工知能がそれを解釈して次の動作を決め、その命令がふたたびモーターへ下りていく循環が、一秒に数百回も繰り返されます。
近年の最も大きな変化は、この「頭」を作る方法そのものにあります。かつては人がすべての動作を一つひとつプログラムせねばなりませんでしたが、いまでは膨大な映像とシミュレーションを通じて、ロボットが自ら動作を学習する方向へと重心が移りました。とりわけ視覚と言語、行動を一つに束ねて学習する新しい人工知能モデルが現れたことで、「コップを取って」という一言をロボットが理解し、初めて見る環境で実行することが少しずつ現実になっており、第2話で見た企業がそれぞれ自社の人工知能に総力を傾ける理由も、まさにここにあります。
均衡を取る制御、力を出すモーター、その力を整える減速機、判断を担う人工知能、そしてすべてを支えるバッテリー。ヒューマノイドという一つの機械は、結局この五つの層の精緻な合奏であり、どれか一つでも脆ければ全体が止まってしまいます。
ところが、この部品の一覧をじっと眺めると、それはそのまま一つの巨大な産業地図でもあります。モーターを作る会社、減速機を寡占する会社、人工知能チップを売る会社、バッテリーを供給する会社が、それぞれこの流れの要所を押さえているからです。次回は、この技術の解剖図をそのまま裏返し、ヒューマノイドが大量生産される時代に、はたしてどこで金が流れるのか、その株式のバリューチェーンを追っていきます。