Lucky Please · Deep Report
Strait of Hormuz

世界経済の最も狭い道
100日の戦争、そして30%の原油高

イスラエルとイランがミサイルを撃ち合った100日余りの間に、ブレント原油は31%上昇した。今週、両国が攻撃停止を宣言したにもかかわらず、市場は緊張を解いていない。理由は地図上の一点にある。世界の石油の20%、LNGの20%が通る海の道、ホルムズ。いま世界で最も熱い問題をデータで読み解く。

Published 2026·06·11 · 11 min read · by Lucky Please Editorial
Overview

今週、何が起きたのか

先週末から今週初めにかけての展開は、めまぐるしいものだった。イスラエルがレバノンのヒズボラを空爆し、その直後にテヘラン・タブリーズ・イスファハンで爆発音が報告された。月曜日(6月8日)、ブレント原油は3.4%高の1バレル96.24ドル、WTIは3.2%高の93.41ドルで取引を終える。そして翌日、トランプ米大統領の仲裁要請を受け、イランとイスラエルが相互の攻撃停止を発表した。それでも原油価格は下がらなかった。市場は安堵ではなく様子見を選び、9日の原油はむしろ小幅に続伸している。

この衝突は突然始まったものではない。2月末の米・イスラエルによる空爆で激化して以来、100日以上続いてきた紛争だ。その間にブレント原油は紛争前夜比で約31%、WTIは約37%上昇した。同じ週、ワシントンでは米下院がイラン戦争の終結を求める決議を可決し、政権と議会の亀裂まで表面化した。停戦の宣言、議会のブレーキ、それでも緩まない原油価格。この三つが同じ週に重なった理由を理解するには、地図の上で幅33kmの海の道を一本、見つめる必要がある。

紛争期間
100日+
2026年2月末の激化以降
ブレント累計
+31%
紛争前夜比 (WTI +37%)
6/8 ブレント
$96.24
+3.39% · WTI $93.41
ホルムズ石油輸送量
2,000万 b/d
世界消費の~20% (EIA·2024)
ホルムズ LNG
世界の20%+
カタール輸出の93%が経由
現在の状態
攻撃停止を宣言
市場は持続性に懐疑的
The Chokepoint

幅33kmにかかる世界経済

ホルムズ海峡はペルシャ湾とインド洋を結ぶ唯一の海の道だ。最も狭い場所の幅は約33km、実際の航路は片側それぞれ3kmほどしかない。米エネルギー情報局(EIA)はここを「世界で最も重要な石油輸送のチョークポイント」と呼ぶ。数字を見れば、誇張ではないことがわかる。

指標規模意味
石油輸送量 (2024年平均)2,000万 b/d世界の石油消費の約20%
海上原油貿易に占める比率25%+世界の海上原油の4分の1
最大の利用国 — サウジアラビア550万 b/dホルムズ原油フローの38%
LNG輸送量 (2025年上半期)11.4 Bcf/d世界のLNG貿易の20%以上
カタールLNGのホルムズ依存度93%UAEは96% — 事実上の全量
代替ルートほぼ皆無迂回パイプラインは一部のみ吸収

出典: 米エネルギー情報局(EIA)・国際エネルギー機関(IEA)のホルムズ分析。サウジアラビアの東西パイプラインとUAEのフジャイラ・ラインが一部の迂回能力を提供するものの、EIAは「海峡が閉ざされれば石油を運び出す代替手段はほとんどない」と明記している。危機の長期化を受け、EIAが5月にチョークポイント専用のデータセットを新設したほどだ。

石油だけではない。韓国・日本・中国が依存するカタールのLNGは、事実上その全量がこの海峡を通る。天然ガスは原油よりさらに代替ルートが乏しい。パイプラインを持たない海上LNGは、船が通れなければそこで終わりだ。ホルムズは「石油の海峡」と呼ばれるが、同時に電力と暖房の海峡でもある理由がここにある。

世界のGDPの流れを一点に集めると、それがホルムズになる。幅33km、航路3km。グローバル化が生んだ、最も効率的で最も脆弱な設計だ。 — チョークポイントの経済学
Mechanism

封鎖ではなく「封鎖の確率」に課金される

興味深い事実がある。ホルムズは歴史上、一度も完全に封鎖されたことがない。1980年代のイラン・イラク「タンカー戦争」の時も、2019年のタンカー攻撃の時も、石油は流れ続けた。それでも原油価格は紛争100日で30%以上も上昇した。市場が価格に織り込むのは、封鎖という事件ではなく封鎖の確率だからだ。

今週はその教科書的な事例になった。攻撃停止の宣言が出たのに、原油価格は下がるどころか小幅に上昇した。イランが「イスラエルがヒズボラへの攻撃を続けるなら再開する」という条件を付け、市場はその条件付き停戦の持続可能性を低く見積もったのである。実際、激化以降の海峡通過量は平時より制限された状態が続いているというのが市場の評価だ。保険料が上がり、船会社が迂回と待機を選ぶことで、物理的な封鎖がなくても供給はすでに細っている。

原油価格の構成要素を分けてみるとこうなる。需要と供給がつくる基本価格の上に、戦争がつくるリスクプレミアムが乗る。紛争100日間の+31%のうち、どこまでがファンダメンタルズで、どこからがプレミアムなのかを正確に線引きすることはできない。ただ、停戦のニュースにも価格が緩まないこと自体が、プレミアムがまだ厚く残っているというシグナルになっている。

Transmission

原油価格からあなたの財布まで、五つの経路

① インフレと金利。原油価格は最も速いインフレの伝播経路だ。輸送費と電気料金を経由して、数か月のうちに消費者物価へ届く。各国の中央銀行が利下げサイクルを慎重に検討していた局面で原油が90ドル台に張り付けば、利下げの時期は後ろへずれる。6月初めに米ハイテク株が急落した際、10年物国債利回りが4.5%台へ跳ね上がった背景にも、エネルギー発のインフレ懸念があった。

② 海運と保険。戦争リスク保険料が上がれば、ホルムズを通るすべての貨物の原価が上がる。タンカーだけでなくコンテナ船も同じだ。2024年の紅海危機が示したように、チョークポイント一つの摩擦はグローバルな運賃全体を揺さぶる。

③ 株式市場の入れ替わり。紛争が激化する局面のたびに、エネルギー株・防衛株が上がり、ハイテク・グロース株が押されるローテーションが繰り返されてきた。6月5日の米国株急落(S&P -2.6%、ナスダック -4.2%)の直接の原因はAIバリュエーションへの懸念だったが、債券金利を押し上げた原油価格も、その引き金にかかった指の一本だった。恐怖指数(VIX)が21を超えたのも同じ週のことだ。

④ 韓国 — 二重の露出。韓国は原油輸入の約70%を中東に依存し、その大部分がホルムズを通る。カタールのLNGも同様だ。そこに為替が重なる。1ドル=1,550ウォン台のウォンで90ドル台の原油を買う構図のため、ウォン建ての調達単価はすでに二重に膨らんでいる。貿易収支・電気料金・物価が順に圧力を受ける構造である。

⑤ AI時代の新しい回路 — 電力コスト。今回のサイクルで初めて登場した経路だ。AIデータセンターは電力を大量に飲み込み、電力の限界価格は多くの国で天然ガスが決める。ホルムズを通るLNGが世界貿易の20%を占めるということは、海峡の緊張がそのままAI推論コストの変数になったということだ。半導体を売って好況を享受する韓国にとっては、コインの裏表のような話でもある。

Bottom Line

狭い道は、みんなの問題だ

ホルムズから1万km離れたソウルのガソリンスタンドの価格表、東京の電気料金の通知書、シリコンバレーのデータセンターの電力契約書。幅33kmの海の道の緊張は、そのすべての数字に分散して請求される。今週の停戦宣言が守られるなら、リスクプレミアムは徐々に剥がれていくだろう。破られるなら、市場はすでに見た映画の次の場面を、より速く価格に織り込むはずだ。

確かなことは一つ。世界経済はこの100日間で、自分がどれほど狭い道の上に立っているかを再確認した。エネルギーの多角化、戦略備蓄、代替航路、そして原子力・再生可能エネルギーへの転換といった言葉が、再び政策の前列に出てきた理由だ。狭い道の地政学は終わっておらず、その請求書は国籍を選ばない。

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参考資料 · Sources

  1. U.S. EIA, "Amid regional conflict, the Strait of Hormuz remains critical oil chokepoint" — eia.gov (2,000万 b/d · 世界の20% · サウジアラビア38%、一次資料)
  2. U.S. EIA, "About one-fifth of global LNG trade flows through the Strait of Hormuz" — eia.gov (11.4 Bcf/d · カタール93% · UAE 96%、一次資料)
  3. IEA, "Strait of Hormuz — oil security" — iea.org (一次資料)
  4. CNBC, "Oil prices spike over 3% as Iran and Israel trade strikes" (2026.06.08) — ブレント $96.24 · WTI $93.41 · 累計 +31%/+37%
  5. CNBC, "Oil rises slightly as investors await clarity after Iran-Israel halt attacks" (2026.06.09) — 停戦宣言・市場の懐疑論
  6. Reuters/Investing, "Oil prices settle higher after Iran and Israel say they have halted attacks" (2026.06) — イランの条件付き再開警告
  7. NPR・主要海外メディア総合 (2026.06 第1週) — テヘラン・タブリーズ・イスファハンの爆発、米下院のイラン戦争終結決議
  8. World Oil, "EIA launches new oil, LNG chokepoint datasets amid Hormuz crisis" (2026.05.12)
  9. 6月5日の米国株・金利・VIXの数値は当日の市場データに基づく。